研究概要 |
ショウジョウバエでは1つの遺伝子から3つのアイソザイム(α,β,γ)が選択的スプラシングにより生成されるメカニズムが示唆された.また,カイコでは発生過程で2つのアイソザイム(S型とF型)のスイッチが観察され,アルドラーゼ遺伝子の差次的発現が示唆された.このように昆虫では哺乳類にはないアイソザイム生成のメカニズムが予想され,また,アルドラーゼ遺伝子の分子進化を考える上でも貴重な情報を提供できるものと思われた.ショウジョウバエでは選択的スプラシングによって生成されると思われる3つのアイソザイムを大腸菌の系で発現させ,それらの酵素を精製し,性質を明らかにした.その結果,3つのアドラーゼとも性質的には哺乳類のC型に類似していた.また,成虫より作成したcDNAライブラリーから新しい2種のアルドラーゼクローンを得,1つは2つのC末端のエキソン(4αと4β)をもつクローン4-3と活性中心のLys残基がGln残基に置換している6-2の全シークエンスを決定した.4-3クローンは4αのエキソンをを翻訳し,α型のアイソザイムを生成した.6-2は疑似遺伝子と思われ,進化の過程で変異したものと推定された.カイコでは脂肪体cDNAライブラリーより1つのクローンを得,解析の結果,ショウジョウバエとは80%のホモロ-ジ-を持っていた.これはS型アルドラーゼをコードするものと推定される.また,F型アルドラーゼについては現在スクリーン中である.しかし,カイコではノーザン,サザンの結果,S型,F型の遺伝子は別々であることが示唆された.酵素にはS型は哺乳類のB型に,F型はC型に類似しており,ショウジョウバエではC型のみしか観察されなかったが,カイコではFructose-1-phosphate(F1P)の代謝系があることが確認された.ショウジョウバエについてもこの代謝系は存在するものと考えられ,6-2の更なる解析が必要とされる. 昆虫は無脊椎動物の中でも高度に進化した生物種であるが,脊椎動物の進化とは異なった経路で遺伝子を進化させたと思われる.本研究ではアルドラーゼを分子マーカーとして,無脊椎動物の昆虫そして脊椎動物のアルドラーゼとそのアイソザイムについて追究してきた.その結果,アルドラーゼの先祖型はC型に由来するものと推定した.つまり,先祖型は分子進化の過程でまず,C型とB型とに分岐し,その後,さらにC型はA型を分岐し,現在ある3つのアイソザイムを生成したものと予想される.この中で,昆虫はショウジョウバエのようなC型中心のアイソザイムも持つもの,カイコのC型とB型を持つもの,バッタのようにA型とB型を持つもの(バッタについては未発表データ)と多様に進化したものと推察した.
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