本研究課題は平成5年度に予定されていた小腸上皮細胞におけるオスミウム染色および酵素細胞化学と平成6年度に予定されている同細胞におけるゴルジ装置の免疫細胞化学から構成されている。平成5年度分の成果を以下にまとめる。ヨウ化亜鉛オスミウム(ZIO)染色によるゴルジ装置の染色については、小腸陰窩の未熟な細胞のゴルジ装置には明瞭な染色性を示さず、絨毛基部より上部の上皮のゴルジ装置に明瞭な染色性を示したことから、細胞の分化(成熟度)とZIO染色性との間に関連性が示唆された。特に成熟した細胞の小胞体とゴルジ装置の移行部には小型の顆粒を含む小管状構造の存在が確認された。同部位における小胞体の分布を検討するために行ったglucose-6-phosphatase(G6Pase)の酵素細胞化学的局在についてはマウスでは小胞体を標識したが、ラットにおいては小胞体に分布が見られなかった。しかし新たに試みたlnosine diphosphatase活性はG6Paseに代わる小胞体の標識酵素として有用であることが判明した。この酵素活性の分布は腸陰窩の最も未分化な部位では細胞のいずれの部位にも反応産物が認められないが、絨毛の上部に向かうにつれて、まずゴルジ装置に反応産物が現われ、次いで小胞体、形質膜へと分布する領域が広がって観察されたことから、この細胞の成熟と同酵素の分布に明瞭な関連性を得ることが出来た。特に小胞体に分布する同酵素の反応産物は比較的疎な分布を呈するのに対して、ゴルジ装置のそれは比較的密であり、両者を反応産物の形状から充分、識別可能であった。この点から吸収上皮細胞の絨毛基部において小胞体とゴルジ装置の移行部のそれぞれの領域分布を観察すると、小胞体がゴルジ装置へ密着、あるいは侵入している部分が認められ、小胞体成分のゴルジ装置への関与が示唆された。
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