研究概要 |
正常なヒトの掌蹠に見られる皮膚紋理の変異は,種々の先天異常の診断に役立っている。本研究の目的は,実験動物モデルとして,マウス掌蹠の標準的な形態とその発生過程を記載し,遺伝的あるいは環境的因子によって,その形態がどのように乱されるかを明らかにすることである.まず,成熟Jcl:ICRマウスの掌蹠の表皮をアルカリ処理で剥離し,真皮表面をトルイジン青で染色して,紋理を観察した.掌蹠に見られる隆起は,各指先にある指パッド,中手(足)遠位部にある指間パッド(前肢3個,後肢4個),掌蹠近位部にある手(足)根パッド(前後肢とも2個),指腹を横走する横隆起,指間・手(足)根パッドの間にある多数の小さな敷石状結節,に分類された.この中で横隆起と敷石状結節はわれわれにより初めて記載されたものである.正常個体では指パッド,指間パッドおよび手(足)根パッドの数と位置は一定していた.Jcl:C57BLマウスとの比較でも系統差は認められなかった.光学顕微鏡でパッド内には汗腺が認められ,走査電顕でパッド表面には汗腺開口と,真皮乳頭が連なった隆線が観察された.さらに,胎生14日(腟栓発見=0日)から生後3週までのJcl:ICRマウスでパッドの発生を観察した.指間パッドは胎生15日,指パッドは胎生16日,横隆起と敷石状結節は胎生17日から18日にかけて出現した.これらの正常所見を規準として,5フルオロウラシル,レチノイン酸など既知の四肢奇形誘発物質の投与を受けたマウス母体からの妊娠末期胎仔の掌蹠皮膚紋理の観察を開始した.多指や欠指などの指列異常を誘発する閾値以下の投与量でもパッド異常が誘発される場合のあることが既に確認されており,マウス掌蹠皮膚紋理が発生毒性検出指標として意義があることが示された.
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