研究概要 |
ヒトの掌蹠に見られる皮膚紋理の変異は,種々の先天異常の診断に役立っている。本研究の目的は,実験動物モデルとして,マウス掌蹠の皮膚紋理の標準的な形態とその発生過程を記載し,遺伝的あるいは環境的因子によって,その形態がどのように乱されるかを明らかにすることである。昨年度までの研究で明らかにされた正常像と,種々要因による異常像を基に,本年度は掌蹠皮膚紋理異常の形成機序を解析した。さらに,数種の動物の掌蹠皮膚紋理を比較し,動物の生態と皮膚紋理形成の関係を調べた。当教室で系統維持している変異種メロメリア(meromelia)マウスでは,皮膚紋理の観察から,掌側の一部が背側化していることが明らかとなったが,肢形成期に発現するShh, Wnt-5a, Wnt-7aなどパターン形成に関係する遺伝子の発現をホモ胚子の胚芽で調べたところ,野性型胚子と差が認められ,これらの遺伝子の紋理形成への関与が示唆された。また,胎生期レチノイン酸投与による掌蹠パッド異常の病的発生過程を調べたところ,アポトーシスによる細胞死が認められた。しかし,アセタゾールアミドでは特異的なパッド異常が誘発されるにもかかわらず,胚芽に過剰な細胞死は認められなかった。パッド異常の病的発生過程にも因子による差があることが推察される。マウス,ラット,モグラ,ヒミズ,ウサギなどの掌蹠皮膚紋理を比較したところ,パッドが地上での歩行や,ものを掴む,よじ登るなどの行動に適応して進化したことが示唆された。
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