研究概要 |
まず、リンパ管の同定と増殖度の判定のために、増殖細胞核抗原(PCNA)とその他の細胞マーカーとの多重免疫染色を新たに開発し(Arch.Histol.Cytolo.,印刷中;第99回日本解剖学会総会発表;第100回同会発表予定)、以下の研究に用いた。 1、リンパ管の発生と分化過程(平成5年度分の継続):生後3-4時間目の新生仔では既に初乳を飲み、腸管膜リンパの中に乳びが観察された。腸管自体は幼若な形態をしており、スミ等の巨大分子の吸収もごく僅かながら認められたが、生後1日を過ぎるとそれも全く認めなくなった。リンパ管の吸収可能な分子のサイズについては特定できなかった。 2、リンパ管修復・再生過程の追跡:次にリンパ節郭清や胸管管結紮後のリンパ管の修復再生過程を見るためにリンパ管や微小血管に対する抗体と抗PCNA抗体などを用いた多重免疫染色によって経時的に検索した。胸管結紮後2日目では、リンパ節周囲のリンパ管が著明に拡張し破綻を来したが、線維芽細胞を中心とする間質系細胞の増殖や毛細血管の増多に比べ、リンパ管自体の増殖性変化はあまり強くなかった。むしろ、組織間隙に漏れたスミ等の異物は、5-7日目頃の炎症後の癒着で生じた新たな脈管外通液路を介して指導されるのかもしれない。ただし、現時点では間質系細胞が次第に管腔を形成して新たな毛細リンパ管となる可能性も否定できず、この点についての解析が次の目標となる。 3、リンパ管に対する内皮細胞増殖促進因子の影響:リンパ管内皮、血管内皮、および腹膜中皮の細胞培養を試み、それぞれのEGFおよびb-FGFなどの内皮細胞増殖因子に対する反応性について検討した(第19回日本リンパ学会発表予定)。リンパ管内皮は、血管内皮や腹膜中皮と比べても増殖因子による強い変化は認められず、実際の再生組織の所見と合わせるとリンパ管の修復再生は血管新生のような著明な内皮細胞の増殖を受傷後早期から伴わないことが示唆された。
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