研究概要 |
顎骨基質ならびに顎関節円板の老齢に伴う立体構築の変化を明らかにするために,未成熟および成熟の実験用動物の下顎骨と顎関節円板を用いて表層基質を観察した. 成熟のカニクイザルの下顎骨の表層基質は束状のコラーゲン細線維で構成されており,構成線維は部位により異なる配列を呈していた.下顎体部および下顎底部では細線維束の主な配列は前後方向に密に走向していた.下顎体部では局所的にわずかに走向の異なる細線維束の交錯も認められた.オトガイ孔の周囲および下顎角部では多数の腱の侵入が認められ,基質線維は互いに交錯し,腱を取り囲むように走向していた.下顎枝部では細線維束は上下方向に走向し,下顎体部との移行部で走向が変化していた.歯槽部表面では細線維束は上下方向に走向していた.このように下顎骨の基質線維の走向は下顎骨に及ぶ張力と関連性を有することが考えられ,また,歯槽部表層の細線維束の走向は咬合時の圧力との関係を示唆すると考えられる. ラット顎関節円板については,ヒトほど顕著ではないが前方および後方肥厚部と中央狭窄部がみられた.加齢とともに,細胞の減少と線維性基質の著しい増加を伴う円板厚径の増加傾向が認められた.幼若ラットの円板表層は,大部分が密な細線維網で占められており,細線維束はほとんど認められなかった.成熟ラットの円板表層は,細線維網によって被覆された細線維束で構成されていた.円板の下顎窩側の細線維束は中央部では前後方向に,それ以外の領域では放射状に配列されていた.下顎頭側の細線維束は、中央部では前後,内外側方向に,前後縁および内外側縁では放射状に配列されていた.このような細線維構築は,咬合運動時に発生する圧力や関節包あるいは外側翼突筋の牽引力に対して,円板が緩衝構造を持つことを示唆すると考えられる.
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