昨年度まで凍結超薄切片酵素組織科学の利点として、超薄切片上で直接酵素活性を検出するため、組織化学反応液の浸漬用切片(通常は40μm切片を使用)への浸透不均衡のアーチファクトを回避できることを実証してきた。本年度は視点を変えて、同じ超薄切片上で組織科学を行うpost-embedding法との得失について詳細に検討を加えた。post-embedding法と凍結超薄切片法の最大の試料作製上の相違は組織化学反応以前に試料が脱水、包埋過程を経るかどうかにある。免疫組織化学では抗原性が重合熱に耐えることが多いので酵素組織化学と異なりpost-embedding法が多用されているか、脱水、包埋過程による組織内蛋白質の局在の変位についての充分な検討は少ない。そこで、可溶性蛋白質としてacid phosphatase、膜結合性蛋白質としてalkaline phosphataseの活性を指標にグルタールアルデヒド固定とパラフォルムアルデヒド固定との違い、それぞれの固定後、蒸留水洗浄、エタノール脱水、アセトン脱水、マイクロウェーブ照射、超音波照射後の酵素蛋白質の局在を電子顕微鏡にて観察した。asid phosphatase活性はパラフォルム単独固定でも拡散が認められ、グルタールアルデヒド固定でも脱水操作を行えば明らかな酵素蛋白質の流出が観察された。alkaline phosphataseは弱い固定でも良い局在が得られるが、やはり脱水操作によって明らかな局在の変位が確認できた。以上のことより、試料を組織化学反応前に脱水、包埋過程を通せば組織内蛋白質の位置の移動が生ずる危険性が明らかとなり、上記過程を経ない凍結超薄切片組織化学の利点が実証された。 本年度は同時に凍結超薄切片を用いたアゾ色素法の電顕応用も試みたが、アゾ色素法の場合、反応最終産物の超薄切片内での保持に未だ問題があり、充分な結果が得られなかった。
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