血管内皮細胞は血液と組織との間に介在し、血行動態や血管生理に関与する種々の生理活性物質を産生・放出する多機能細胞である。我々の過去の研究において血管内皮細胞の封入体であるワイベル・パラ-デ小体(WP)がvWfのみでなく、ヒスタミン貯蔵の場であることを解明したが、それに加えてWPが内皮細胞で産生された、あるいは血行中から内皮細胞に取り込まれた種々の血管作動性物質の貯蔵の場であることを想定してきた。本研究計画の実施にあたり、我々の免疫電顕で明らかにしたWPがエンドセリン-1(ET-1)の貯蔵部位であるという事実に基づき、以下の研究を展開した。1.ET-1とその前駆体であるbigET-1のWPにおける局在において、ET-1はその中央部に集積するのに対し、bigET-1はWPの限界膜上(WPはゴルジ装置由来であるのでゴルジ膜)や周辺部に優勢である。従来からbigET-1の変換酵素は内皮細胞膜に局在すると考えられていたが、今回の免疫電顕所見は変換酵素がWP限界膜にも存在し、WPがbigET-1からET-1へのプロセッシングの場の一つであることを証明した。目下二重標識免疫電顕で一層詳細に検索中である。2.ラット脳硬膜静脈洞の静脈血還流におけるET-1の果たす役割については、内皮細胞の粗面小胞体で産生されたET-1はやはりWP小体に貯蔵される。横静脈洞は内皮下層に数層の平滑筋細胞を有するが、その形質膜上や小窩にもET-1の局在が認められる。このことは内皮細胞から傍分泌されたET-1が平滑筋細胞の受容体を介して能動的血管収縮を誘発し、脳静脈血の内頸静脈への還流の円滑化に関与していることを示唆している。3.WPがヒスタミンやET-1以外の血管作動性物質貯蔵に関与するか否かについてはラット頸動脈小体動脈、ならびにそれから分枝する細動脈が含有するWPがET-1に加え、CGRPを貯蔵することが今回の研究で明らかとなった。同器官のその大きさに比べて膨大な血流量が流入する頸動脈小体において、WP貯蔵のCGRPの血行動態における機能的意義は今後とも注目していくべきである。
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