研究概要 |
血管内皮細胞の増殖特性を明らかにすることは、粥状動脈硬化や癌進展に伴う血管新生をコントロールする方策を探る上できわめて重要な意味をもつ。ヒト臍帯静脈内皮細胞培養系についての我々の検討の結果、従来汎用されて来た種々の株化樹立細胞とは異なる増殖特性を有していることが明らかとなった。その最大の特徴は、Cキナーゼ(PKC)活性化により2相性の増殖制御を受けることである。すなわち、この内皮細胞は成長因子による刺激後12ないし15時間のG1期の後、DNA合成(S期)を開始するが、成長因子作用初期(G1早期)にPKC賦活剤であるホルボールエステルや合成1,2-ジアシルグリセロールを共存させると、DNA合成の開始時期は変らずに最大値が2〜3倍に増大する。これに対し、G1後期にPKC賦活剤を添加すると、DNA合成は逆にほぼ完全に抑制される。PKC賦活剤の作用は、PKCをダウンレギュレートしたPKC欠損内皮細胞ではいずれも著しく減弱することから、これらの作用は両方向ともPKC活性化を介していると考えられる。さらに、このようなPKCによる2相性増殖制御の分子機構を検討した結果、以下の知見が明らかとなった。(1)細胞周期進行をつかさどるサイクリン依存性蛋白キナーゼであるcdc2、cdk2キナーゼの活性は、G1早期におけるPKC活性化により約2倍に増大し、逆にG1後期におけるPKC活性化により完全に抑制された。(2)cdc2、cdk2の基質蛋白である癌抑制遺伝子産物RB蛋白のリン酸化も、G1早期/G1後期PKC活性化により増殖/完全抑制の2相性の反応を示した。これらの所見は、PKCがcdc2、cdk2の少なくとも2つのサイクリン依存性キナーゼの活性化機構を正・負両方向に制御し、その結果、G1/S移行に深く関与しているRB蛋白リン酸化状態を変化させ、S期移行を促進あるいは停止することを意味する。この結果は、PKCによる増殖制御の分子機構を世界にさきがけて明らかにしえたものである。
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