心筋細胞の膜伸展による膜電流の調節機構について実験、解析をおこなった。細胞外液を低浸透圧にし、これによって心筋細胞を膨化させて膜を伸展した。低浸透圧で遅延整流K電流、Na-Kポンプ電流およびCl電流が著しく増強される事を観察し、これについて詳細な検討を行った。この電流増強は細胞内外のCaイオンを除去した条件下でも観察され、またプロテインカイネースを介する反応では無い事も確認された。したがって低浸透圧負荷による電流増強は膜伸展による直接作用である事が示唆された。またほとんどの細胞ではポンプ電流が低浸透圧負荷時に増大し、Cl電流が活性化されないこと、Cl電流の活性化は細胞の機能維持に取って致命的であることから、心筋細胞の容積調節機構にはポンプ電流が重要な役割を担う事が示唆された。実際、Cl電流は低浸透圧負荷でもポンプ電流が増大しない一部の例外的な細胞でのみ観察され、非常にゆっくりとしたタイムコースで増大した。遅延整流K電流についてはノイズ解析を含む詳細なカイネティックスの解析を行い、活性化カイネティックスおよび単位電流値は変化しないこと、このチャネルのアベイラビリティが変化する事が明らかとなった。これらの結果はCirculation Researchに投稿し受理された。その後、低浸透圧による細胞の容積を定量的に測定するための新しい装置を開発することを試み、ほぼ完成できた。今後はこれを用いてより定量的に膜伸展の作用について検討を加えていく。
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