初年度の計画として、単離糸球体の微小灌流法の確立と単離糸球体の細胞内カルシウム濃度の変化を共焦点レーザー顕微鏡で測定することを目標としていた。糸球体をウサギの腎臓から単離する技術は、ピペットの工夫や経験を重ねることである程度の水準を維持することが出来るようになったため、共焦点レーザー顕微鏡の測定法を確立することに時間を費やした。糸球体は内皮細胞、メザンギウム細胞、上皮細胞という異なる細胞の集団から構成されているため、通常の画像解析を用いた顕微測光法では解析する事が困難となる。従って、共焦点レーザー顕微鏡による光学的断面による解析が不可欠となる。共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定されたシグナルが、果たして本当に細胞内の情報を反映しているかどうかを、比較的扱い慣れた腎臓の尿細管を用いてまず検討した。これは共焦点レーザー顕微鏡の測定法を確立する上で非常に重要な位置を占めることになった。即ち、第一に標本が全く動かないことが、測定上絶対条件であり、特に単離灌流法を用いる際に溶液の置換などで発生する乱流を最小限に抑えることと、標本の固定を十分に行うことが必要であると判明した。第2に励起光としてアルゴンレーザーを使用するため、2波長励起による絶対値の測定が不可能であることが判った。従って、定量的解析には不向きで、定性的解析には絶大の威力を発揮する。さらに、細胞に負荷できる色素の量には限度があり、レーザー光を当てている間にどんどん発射光が減弱していくという欠点があり、長時間の測定と繰り返し行う実験には適さなかった。尿細管を用いた共焦点レーザー顕微鏡の測定法の確立には、集合尿細管を選んでバゾプレッシンによる細胞内カルシウムの動きを指標にした。テーマとしては、最近我々が発見した集合尿細管の管腔内にあるバゾプレッシン受容体が、集合尿細管を構成する主細胞と暗細胞のどちらに存在するかという簡単なテーマを選んだ。電気生理学的実験から予想されていた通り、集合尿細管の主細胞にバゾプレッシンの受容体が存在していたことに満足している。この成果は近くKidney Internationalに掲載される予定である。
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