初年度に、共焦点レーザー顕微鏡を用いた画像解析から、集合尿細管の管腔側膜にバゾプレッシンV1受容体が存在することを報告した。2年次の計画は、このバゾプレッシン受容体の生理的役割と細胞内情報伝達系の解析に変更を余儀なくされた。従来より、集合尿細管の血管側には、V2受容体が存在し、cyclic AMPを介して水チャンネルを管腔側膜に挿入することで、水の透過性が増加することが知られていた。しかし、イオン透過性の変化に関しては、議論が多いところであり、必ずしも一致した見解が得られていなかった。我々は今回発見した管腔側膜のV1受容体の生理学的役割を解明するとともに、従来からの未解決事項である血管側のV1受容体とV2受容体のイオン透過性に及ぼす影響と、それらと管腔側膜のV1受容体との相互作用という問題に取り組んだ。主に電気生理学的手法を用い、新しく開発された非ペプチド性のV1・V2受容体拮抗薬を使用することとなった。その結果判明したことは、(1)血管側のV2受容体はクロライド透過性を増加させる。(2)血管側のV1受容体は同時にナトリウムの透過性を増加させる。(3)管腔側膜のV1受容体は血管側のV2受容体によって増加したクロライドの透過性を抑制する作用を有する。以上より、生体にバゾプレッシンが増加した状態では、集合尿細管において、NaClの吸収が増加することとなるが、同時に増加する管腔内のバゾプレッシン濃度によって、その吸収はフィールドバック阻害を受けることになる。血漿滲透圧の変化を反映して飲水行動をとるときには、細胞外液量に応じて糸球体濾過量が変化し、管腔側のバゾプレッシン濃度も変化することになる。水とNaClの吸収量の調節にとって非常に都合のよい機構と考えられる。
|