研究概要 |
Na,K‐ATPaseは動物細胞における細胞内環境維持のためのイオンポンプとして必要不可欠の酵素である。本酵素はcatalytic subunitであるalpha‐subunitと、機能の点ではまだ完全には明らかではないbeta‐subunitから構成されており、この両subunitのアセンブリはERで行なわれる。最近、ER内での幾つかの蛋白質のsubunitアセンブリに於て、heavy chain binding protein(BiP)がカルシウム存在下で関与していることが示され、Na,K‐ATPaseに於てもその関与が示唆されている。我々は、ラットNa,K‐ATPase beta‐subunitのN末側半分(beta_N)を人工発現しているHeLa細胞を用い、ER内で生じる本酵素のアセンブリ過程でのカルシウムの影響について以下の事を行なった。 1.thapsigargin(TG)の細胞内カルシウム濃度に及ぼす影響をfura2‐AMを用いて行ない、TG100nMで細胞内カルシウム濃度が顕著に上昇することがわかった。 2.Na,K‐ATPaseのERに於けるアセンブリと細胞膜への輸送をTG100nM存在下で検討したところ、宿主Na,K‐ATPaseのアセンブリ、細胞膜への輸送のいずれも変化は認められなかった。 3.100nMTGを作用させると、ERに存在しているbeta_Nが細胞膜に輸送されている事を示す結果が得られた。これはbeta_NがER内でBiPまたはその他の蛋白質にカルシウム濃度依存的に捕捉されていることを示唆しているが、他の試薬(BAPTA‐AMなど)で更に詳しく検討する必要がある。 4.A23187を細胞に作用させ細胞内架橋試薬を用いて解析すると、beta・beta_N複合体の形成が観察された。これはER内でのbeta・beta_N複合体の形成にカルシウムイオンが関与している事を示唆しているが、今後さらにbeta・beta_N複合体形成の意味と複合体形成に関与する因子を明らかにする必要がある。
|