研究概要 |
本年度は,乳汁射出反射の際,オキシトシン細胞にburst発火を同期して起こさせる同期化神経回路が視床下部に存在するかどうかを確かめるための実験を行った。 1.中脳半側破壊の効果:ウレタン麻酔下の授乳期ラットを用い,中脳部の半側をナイフカットし,左右の視索上核からオキシトシン細胞の同時記録及び片側記録を行った。その結果,中脳部半側切断ラットにおいても,同期したmilk ejection burstが左右両側性に現れることが確認された。ところが,視床下部背内側核のレベルで半側切断したラットでは,milk ejection burstは,非切断側のみに観察された。従って,左右の視索上核に存在するオキシトシン細胞に同時にmilk ejection burstを起こさせる同期化機構は,中脳から視床下部中部までの間に存在するものと推定された。中脳半側切断ラットでは両側の視索上核からmilk ejection burstが記録されたが,そのburstの振幅(spikes/burst)には差が認められた。すなわち,破壊側のburstは非破壊側で記録されたburstよりその振幅が小さかった。この事実は,同期化機構は左右の視索上核に等しい大きさの信号を配分するのではなく,誘発されるburstの振幅は各側を上行する乳首からのインプットの有無に依存していることを示唆している。 視床下部の左右離断実験:同期化のための神経連絡が交差する部位を切断すれば,脱同期化したmilk ejection burstが左右の視索上核から記録できると考えて,視床下部の種々の部位で左右離断を試みたが,遂に,milk ejection burstの脱同期化を起こすには至らなかった。その原因は,中部から後部視床下部の離断の際には技術的に第3脳室の底部まで切断できないことにあると考えられた。 以上の結果から,オキシトシン細胞の同期化機構は中脳吻側部と中部視床下部の間に存在することが明らかになった。また,burstの大きさは左右それぞれの側の求心路を上行する信号量に依存することが示された。
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