1.小腸絨毛細胞の成熟化に伴うラクターゼmRNAの発現:ラット空腸組織を絨毛-クリプト軸にそって分画したところ、ラクターゼmRNA量は絨毛先端まで除々に増大した。ラクターゼ遺伝子はスクラーゼ遺伝子とは異なり、吸収細胞の成熟に伴って緩やかに発現を続けた。 2.ラクターゼ遺伝子発現を調節する食事要因とその調節機構:スクロースの摂取により、ラット空腸のラクターゼmRNAとスクラーゼmRNAの量はともに著しく増大したが、代謝されない糖質ではこれらのmRNA量は変動しなかった。中鎖脂肪の摂取はラクターゼmRNA量を変動させなかった。スクロースによるラクターゼmRNA量の増大は3時間以内に絨毛全域で起こり、この増大はアクチノマイシンDの腹腔内投与によって阻害された。従って、ラクターゼ遺伝子の転写は糖質の代謝産物によって調節されていると推察される。 3.ラクターゼの小腸吸収細胞内の局在:免疫電子顕微鏡法により、スクラーゼは微絨毛膜にのみ検出されたが、ラクターゼは微絨毛膜だけでなく、側面膜にも検出された。ラクターゼの一部は微絨毛膜へのターゲティングを免れて側面膜へ移行すると推察された。 4.ラクターゼ翻訳後修飾に及ぼす栄養素摂取の影響:中鎖脂肪の経口投与は小腸管理腔内の胆汁酸量を減少させて、微絨毛膜におけるスクラーゼの分解を抑制した。長鎖脂肪の摂取は小腸管腔内の膵プロテアーゼ活性を高め、空腸微絨毛膜にラクターゼ活性を失ったラクターゼを産出し、細胞内膜に糖鎖の修飾の不完全なスクラーゼを蓄積した。長鎖脂肪の摂取は吸収細胞内のラクターゼのプロセシングを阻害し、酵素を失活させると推察された。 5.ラクターゼ発現の日内リズムの検討:スクラーゼmRNA量は日内変動を示したが、ラクターゼmRNA量は変動しなかった。微絨毛膜の総タンパク質量が日内変動を示したので、微絨毛タンパク質の代謝回転の変動を介してラクターゼ活性が変動すると推察された。
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