〈目的〉微量細菌内毒素(LPS)の混入により摘出血管内に一酸化窒素(NO)合成酵素が誘導されることが近年明らかとなった。一方、サイトカインにより血管平滑筋細胞内にNO合成酵素が誘導されることが知られている。サイトカイン自身の作用を明らかにするため、LPSの培養液への混入を最小限におさえ、サイトカインによる平滑筋細胞中NO合成酵素活性の誘導能を検討した。 〈方法〉ラット大動脈平滑筋細胞を継代培養し、腫瘍壊死因子(TNF-alpha)、インターロイキン-1beta(IL-1beta)、LPSの組み合わせで刺激し、上清中の硝酸イオン、亜硝酸イオン(NOx)濃度をグリース法を用いて計測した。さらに、mRNAの発現をノーザンブロットにより解析した。細胞培養液は低LPS濃度(<1pg/ml)の大塚製薬注射用水を用いて調製し、全てのガラス器具は摂氏250度で2時間乾熱滅菌し使用した。細胞培養液、添加試薬は実験前にLPS濃度を測定した。 〈結果〉TNF-alpha(5000U/ml)、LPS(100ng/ml)は単独処置では、48時間まで有意なNOx産生を示さなかった。TNF-alpha、LPS同時処置では時間依存性かつLPS濃度依存性にNOx産生がみられ、N-メチルアルギニン(500muM)またはデキサメサゾン(1muM)同時添加により抑制された。一方、IL-1beta(100U/ml)は単独処置で有意なNOx産生がみられ、LPS同時処置で増強作用を認めた。TNF-alpha、IL-1betaは同時処置で相乗作用を認めた。mRNAもNOxと同様の結果を示した。〈考察〉低LPS環境(<20pg/ml)でTNF-alphaは単独ではNOx産生能を持たず、LPSまたはIL-1beta添加を必要とした。IL-1betaは低LPS環境で単独でNOx産生能を持ち、TNF-alphaと相乗作用を示した。以上の結果は生体外物質であるLPS不在下でも複数のサイトカインの存在する環境では血管平滑菌細胞内でNO合成酵素活性が誘導されることを示唆した。
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