本研究は、ヒト多発梗塞を模倣するマイクロスフェア塞栓モデルで発生する病態変化を検討し、その変化を改善する薬物の探索を目的として企画された。平成5年度には、マイクロスフェア塞栓により発生する局所脳血流の低下と脳組織内のアセチルコリン、アミノ酸の代謝異常を観察した。平成6年度には、マイクロスフェア塞栓時のモノアミンの変化とくに、線条体ドパミンのマイクロスフェア塞栓による過量放出を確認した。平成7年度にはマイクロスフェア塞栓ラットの記憶・学習機能の変化を検討し、本モデルがヒト痴呆症の症状を現すか否かを調べた。各年度の研究項目に対して、それぞれ、脳循環改善薬である蓚酸ナフチドロフリルの効果を調べた。この一連の結果から、マイクロスフェア塞栓により、重篤な局所脳虚血、その後の脳梗塞が発生していること、この症状には、脳内アセチルコリン、ドパミン神経系の組織学的、代謝的、機能的な変化が伴っていること、これが脳高次機能である記憶・学習に影響していることを実証した。さらに、脳循環改善薬がこれらの病態変化を部分的ではあるが改善することが判明した。この事実は、本実験動物が多発梗塞痴呆のモデルとなりうること、および本モデルの薬物治療検定系としての妥当性を示した。
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