Chediak-Higashi 病のモデル動物であり、免疫疾患動物である Beige マウスおよびラットを用いて、モルヒネの数種薬理作用を検討した。モルヒネの鎮痛効果は対照の C57BL/6N マウスあるいは DA ラットに比較し、Beige マウスおよびラットともに有意に低い値を示した。また、この Beige 動物におけるモルヒネ鎮痛効果の減弱は脾臓摘出により回復した。したがって、脾臓由来の何等かの物質がモルヒネ鎮痛の抑制に関与しているものと考えられる。一方、Beige マウスにおけるモルヒネ誘発自発運動促進効果は C57BL/6N マウスに比べ、自発運動促進効果が持続し、総運動量は有意な増加を示した。この自発運動促進効果は脾臓摘出によりさらに増強された。また、モルヒネ混入飼料を3日間処置後のモルヒネ鎮痛耐性は、C57BL/6N マウスでモルヒネ鎮痛効果の用量反応直線を、2.94倍右にシフトし、Beige マウスでは5.97倍右にシフトした。したがって、モルヒネ鎮痛耐性の形成はC57BL/6Nより Beigeマウスの方が強く形成されることが明らかになった。Beigeマウスにおけるモルヒネ精神依存は C57BL/6Nマウスと有意差が認められなかった。さらに、モルヒネの身体依存はナロキソン誘発跳躍および身震いにおいて C57BL/6Nマウスより Beige マウスの方が有意に高い値を示した。したがって、Beige マウスが C57BL/6Nマウスより身体依存が強く形成されることが示唆できる。また、サトカインの1つであるTNFの活性を測定したところ Beige マウスの方が C57BL/6N マウスより有意に高かった。これらの結果より、モルヒネの効果は Beigeと対照動物で大きく異なり、この差異の一因としてTNFが関与している可能性が示唆できる。さらに、コカインの精神依存形成に対するリポポリサッカライドの効果を検討したところ、コカインの精神依存形成は著明かつ有意に抑制された。これはリポポリサッカライドがマクロファージを活性化し、TNFやbeta-エンドルフィンを産生した結果として引き起こされたものと考えられる。
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