我々の研究室では、1991年に血球系・免疫系細胞に幅広く発現している新しいチロシンキナーゼの精製、クローニングに成功しSykと命名した。この酵素の一次構造はSrcファミリーと比較し極めて特徴的であったため、Srcファミリーと異なる機能が期待された。その後、様々なリガンドにて多核白血球、抹消リンパ球および血小板においてSykの活性化が認められた。黒崎らと我々のグループは免疫系細胞におけるSykの機能を調べるためにB細胞を用いてチキンのB細胞由来の培養細胞にジーンターゲッティングの手法を用いてSyk欠損B細胞およびLyn欠損B細胞を作製し、その機能的な差異を調べた。その結果、B細胞抗原レセプターからの情報伝達にSykとLynの両方が必要でかつSykとLynに機能的な差異を明らかとなりSykはB細胞抗原レセプターからの情報伝達において中心的な役割をしていることが明らかとなった。 また我々は細胞接着分子であるインテグリンとSykとの関係について血小板を用いて解析を進めた。その結果、Sykがインテグリンからのシグナルにおいて活性化し、さらにこれらと複合体を形成することが明らかとなり、細胞接着現象に深い関係にあることを証明することが出来た。さらに我々は血小板においてトロンビンだけでなくコラーゲン、PAF(Platelet activating factor)、Thromboxane A_2、WGA(Wheat germ aggulutinin)、Ca_<2+>イオノフォアなどもSykを活性化することを報告し、この酵素の普遍的な重要性を示唆した。またSykの細胞内分布に注目し解析を進めた結果、Sykは刺激依存性により細胞質から速やかに細胞膜や細胞骨格系分画に移行することを見いだし、血小板活性化におけるSykの関与を強く示唆した。
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