哺乳動物のヘリックス・ループ・ヘリックス型転写因子HES-1は、ショウジョウバエhairyと高い相同性をもち、未分化な神経・筋細胞で高レベルに発現しているが、分化とともにそのレベルは低下する。更に、HES-1はMyoDによる筋分化を抑制する。今回、神経分化におけるHES-1の役割について解析を行ったので以下に報告する。 神経前駆細胞にHES-1を強制発現させて、神経分化に与える影響を解析するために、HES-1及びlacZを発現するレトロウイルス(SG-HES1ウイルス)及びlacZのみを発現するコントロール・レトロウイルス(SGウイルス)を作製した。いずれのウイルスが感染してもlacZが発現するのでX-gal染色により感染細胞は青く染まる。 これらのウイルスをマウス胎児の脳室に注入することにより神経前駆細胞に感染させた。生後、脳切片を作製しX-gal染色を行い、ウイルス感染細胞の分化パターンを調べた。SGウイルスに感染した細胞は上衣層から皮質へと遊走し、また、突起をのばしており、正常な神経分化をたどっていると考えられた。しかし、SG-HES1ウイルスに感染した細胞は、すべて上衣層にとどまっており、また、突起ものばしておらず、神経分化が抑制されていた。以上から、HES-1は筋分化と同様、神経分化も負に制御する因子であり、HES-1の発現レベルが低下することが分化の進行に重要であることが明らかになった。今後、HES-1により負に制御されている細胞分化因子の同定を試みる予定にしている。
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