ヒト発現型μ鎖(膜型)遺伝子を導入されたマウスの脾細胞にクラス変換を誘導すると、導入遺伝子であるヒトIgMと内在性のマウスIgが同時に発現される。これは、導入遺伝子のヒト可変部と内在性マウス定常部からなるトランスmRNAがトランス・スプライシングによって産生されることによると考えられ、この機構による多重アイソタイプ同時発現が、クラス変換の中間過程に位置してその制御に関与している可能性を示唆している。 本研究ではまず、ヒト発現型μ鎖(膜型)遺伝子導入マウスの脾細胞をLPSと高濃度のIL-4によって刺激すると、ε鎖トランスmRNAが産生されることを見いだした。これによって、全ての内在性アイソタイプの抗体がトランスmRNAによって産生されうることが示された。さらに、このε鎖トランスmRNA産生はε鎖遺伝子の非組換え型転写によって制御されているが、ε鎖トランスmRNAの産生はクラス変換のそれに比して極めて効率がよく、この過程が遺伝子の組換えによるのではないであろうことが示された。また、このとき抗IgG1抗体を添加しておくとγ1、ε両鎖のトランスmRNAの産生が特異的に抑制されるとの予備的結果も得られた。これらの結果により、トランス・スプライシングによる多重アイソタイプ同時発現がクラス変換に先立つ制御過程であることが改めて強く示唆された。 加えて、本研究ではTGF-βによるα鎖へのクラス変換に際し、1.5日後からTGF-βをIL-2に置き換え細胞の増殖を回復させると、クラス変換の遺伝子組換え様式が変化することを見いだした。これは、クラス変換が、非組換え型定常部遺伝子の転写のみでなく、細胞の増殖・DNAの複製によっても制御されている可能性があることを意味している。
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