研究概要 |
大腸菌のグリシン開裂酵素遺伝子オペロンの発現実験において、N末端16残基を欠いたT蛋白質が殆ど活性を示さないという結果を得たので,活性発現におけるN末端の役割を検討した。N末端に種々の長さの欠失を導入した大腸菌T蛋白質クローンを構築し、発現ベクターpET3aに挿入して大腸菌中で発現させた。そのうち7残基の欠失をもつ蛋白質(ETΔ7)をほぼ単一に精製し、CD spectra,kineticsなどについて全長T蛋白質(ET)と比較した。大腸菌中で発現されたT蛋白質の比活性は全長酵素に対し、4残基欠失で約20%、7残基以上の欠失で約5%であった。ET及びETΔ7は同じステップ(DEAE-Sepharose CL-6B,hydroxyapatite,Sephadex G-100の各カラムクロマトグラフィーを順次行なった)でSDS電気泳動的にほぼ単一に精製されたが、ETΔ7はDEAE-SepharoseからETよりもわずかに高塩濃度で溶出された。両者のCD spectraおよび熱安定性に大きな差は見られなかったが、ETΔ7では還元H蛋白質に対するKmがETの約20倍で親和性の低下が顕著であった。一方、N末端に9および12残基の欠失を持つ鶏T蛋白質をやはり大腸菌中で発現させたところ、全長蛋白質と同程度に発現されるが、不溶性となった。これらの結果はT蛋白質N末端数残基の欠失は全体の構造変化を来たすのではなく、基質、特にH蛋白質との相互作用に影響していることを示唆する。また鶏酵素の場合、正しくfoldingされる上でもN末端が重要と考えられる。 現在、大腸菌T蛋白質とH蛋白質との架橋産物を得ており、架橋部位を同定中である。また結晶化も準備中である。
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