もっとも不安定な酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)はユビキチンを介さずにプロテアソームによってATP依存的に分解される。分解には、ODCの生成物ポリアミンによって誘導されるODCに特異的な阻害蛋白質であるアンチザイムが必須である。昨年度までに得られた結果から、アンチザイムは単量体のODCに結合してODCの構造変化をもたらし、ODCの末端近傍にかくれて存在する分解シグナルを露出させてプロテアソームに引き合わせ、その結果、多機能のプロテアーゼ活性をもつプロテアソームによってODCは内部から多数のサイトで切断される可能性が考えられた。本年度は昨年度に引続き、26SプロテアソームがどのようにしてODC・アンチザイム複合体を認識し分解するのか、その機構を分子レベルで明らかにすることを目指して、1.26SプロテアソームのODC水解領域の同定のためにODC分解反応産物の解析を引続き行なった。その結果、分解産物はODCの全域に及ぶ5-11のオリゴペプタイドであること、切断部位は主として中性/疎水性アミノ酸のC端側であることを認識した。また、ODCの分解中間産物や遊離アミノ酸は検出されなかった。次に、2.アンチザイム-依存的ODC分解と構成的ODC分解(アンチザイム非存在下の分解)を比較検討した。1)代謝的にラベルし、免疫親和性クロマトグラフィーによって精製した^<35>S-ODCの26Sプロテアソームによる構成的分解はODCをアンチザイム抗体で処理しても変化しなかった。2)HTC細胞の抽出液ならびに網状赤血球溶血液の抗プロテアソーム抗体処理によってODC分解はほぼ完全に、すなわち、構成的ODC分解も含めて消失した。3)構成的ODC分解もエネルギー依存的であった。以上から構成的ODC分解も26Sプロテアソームによると結論された。この結果から、アンチザイムの役割はユビキチンのようにそれ自身が分解シグナルとして作用するのではなく、ODCに結合してODC分子内に存在する分解シグナルを提示することにあると考えられた。
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