もっとも不安定な酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)はユビキチンを介さずに26SプロテアソームによってATP依存的に分解される。分解には、ODCの生成物ポリアミンによって誘導されるODCに特異的な阻害蛋白質であるアンチザイムが必須である。本研究は、26SプロテアソームがどのようにしてODC・アンチザイム複合体を認識し、分解するのかその機構を分子レベルで明らかにすることを目指している。まず、1.アンチザイムの作用を、(1)アンチザイムの結合によるODCの構造変化、(2)アンチザイムの構造と機能の関係、(3)ODCの構造と安定性の三点から解析した。次に、2.26SプロテアソームによるODCの認識部位を(1)ODC分解反応の生成物の解析、(2)ODC部分合成ペプチドのODC分解阻害作用の検討、(3)構成的ODC分解を触媒する酵素の同定の三点から検討した。その結果、ODCの単量体にアンチザイム(アミノ酸227)が結合するとアンチザイムのC端側(211-213)、中央部(122-144)と隣接するせまい領域(113-118)の作用によりODCの立体構造変化がおこり、ODCの441番目のシステインを含むC末端近傍に存在する分解シグナルが露出し、これが多機能のプロテアーゼ活性をもつ26Sプロテアソームによって認識され、ODCは内部から多数のサイト(主として中性/疎水性のC端側)で切断され、5-11アミノ酸から構成されるオリゴペプチドに分解されると考えられた。アンチザイム自体は26Sプロテアソームによって分解されず、分解シグナルとして作用するのではなく、26SプロテアソームによるODCの構成的分解を促進するものと推定された。ODC分子に存在する認識部位の同定、アンチザイムと26Sプロテアソームの相互作用、アンチザイム結合によるODCの立体構造変化の解析が今後の課題である。
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