マウス赤白血病(MEL)細胞はジメチルスルフオキシド(DMSO)処理等により赤血球分化を始める。我々はMEL細胞由来でありながら赤血球分化を行なわないDR株を樹立し、赤血球型δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS-E)が発現していないことを明らかにした。DR細胞ではALAS-E以外のヘム合成系酵素の分化に伴う誘導は認められたが、誘導の程度はMEL細胞の1/3以下であった。さらにβ-グロビンmRNAはMEL細胞では分化誘導と共に50倍以上に増加するにもかかわらず、DR細胞においては1/10以下に低下していた。このことはALAS-Eが発現していないDR細胞ではヘムが減少し、結果として赤血球系の転写因子に異常が起きたことを示している。そこで赤血球系転写因子の代表であるGATA-1を調べてみたが何の異常もなかった。次にNF-E2の大サブユニット(p45)と小サブユニット(p18)の発現を調べたところ、DR細胞ではp45の発現が抑制されていた。 そこで、ALAS-Eの発現がp45の発現を調節していることを確かめるために、正常なMEL細胞にALAS-EのアンチセンスRNAを発現させた。その結果、ALAS-Eの発現抑制の程度に比例したヘム合成系諸酵素とβ-グロビンの発現の抑制と、細胞内ヘム濃度の減少が明らかになった。さらにこの細胞系に於てもp-45の発現が著明に抑制されていた。NF-E2はALAS-E以外の赤血球系のヘム合成酵素とグロビンの転写を調節している事が最近明かとなったので、これらの事実から赤血球分化時に於てはALAS-Eの誘導がまず起き、結果として増加したヘムによりNF-E2(特にp45)が誘導され、さらにNF-E2によりALAS-E以外のヘム合成系酵素とグロビンの転写が高まるという正のフィードバック調節が行なわれていることが示された。
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