本研究では、レニンと結合し、その活性を阻害するレニン結合蛋白質(RnBP)と腎近位尿細管ペルオキシゾームに局在するD-アミノ酸酸化酵素(DAO)との二つの蛋白質の構造と機能に関して解析を行い、両因子の生理的意義と循環調節系への関与を追求することを目的とした。 1.ヒトゲノム遺伝子の解析 ヒトDAO遺伝子の第1イントロンに存在するCA繰り返し配列により構成されるマイクロサテライトマーカーD12S105の解析により、ヒト染色体12q14-q24.33にDAO遺伝子が存在することが明らかとなった。そこでヒト遺伝病として12番染色体にマッピングされている脊髄小脳失調症2の遺伝子座との連関を分子遺伝学的に検索した。既に明らかとされている遺伝性脊髄小脳失調症で典型的に認められる(CAG)の繰り返し配列はヒトDAO遺伝子には存在しなかった。またキューバ国における脊髄小脳失調症2の患者集団の家系においては、DAO遺伝子エキソン内に変異は認められなかったが、この脊髄小脳失調症2の遺伝子座はヒトDAO遺伝子の近傍1 cenli Morganの範囲内に存在することが明らかとなった。 2.レニン結合蛋白質遺伝子の構造とその発現調節 ブタ大動脈内皮層由来の血管内皮細胞においてはレニンとRnBPの遺伝子発現が共に認められ、血管壁レニン・アンジオテンシン系の一員としてRnBPが機能する可能性が示唆された。この血管内皮細胞では、レニン遺伝子の発現抑制因子であるアンジオテンシンII、バゾプレッシン、エンドセリン等の因子はTGF-β、8-bromo cAMPとともにRnBP遺伝子の発現を促進する事が明らかとなった。またラット副腎髄質由来褐色細胞腫より樹立された細胞株PC12においてもRT-PCR法により、両遺伝子が共発現している事が明らかとなり、組織レニン・アンジオテンシン系の因子としてRnBPが普遍的に存在していることが示唆された。
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