研究概要 |
正常および病的状態において人体に出現する多核巨細胞には2種のものがある.A型は骨格筋細胞,破骨細胞,異物巨細胞,ラ氏型巨細胞などがこれに属し,増殖期核関連抗原(PCNA)が検出されないことから,静止核細胞の細胞融合により生じるものと考えられる.B型は骨髄巨核球,ホジキン巨細胞などに見られるもので,核橋により繋がっていること.PCNAが陽性であることから,endomitosisにより生じるものと考えられる.A型巨細胞は,それ以上細胞分裂を行う能力がない.これらの細胞にはDNA複製関連抗原の発現が見られない.またCD25,CD71などの細胞質肥大に関連するレセプターが発現していない.B型の巨細胞は,細胞分裂を伴わない核分裂(endomitosis)により成長し,ホジキン巨細胞は4Nの状態で分裂能力がある.この細胞はCD15,30,25,71およびHLA-DR,FTF148が陽性で,PCNA,DNA polymerase α,Ki-67などの増殖関連抗原が高率に陽性で,観察されるM期細胞の数との間に著明な乖離が見られ,G1期が異常に長い細胞であり,このために細胞の巨大化が生じていると考えられる.中皮由来の多核巨細胞はB型を主体とするが,ときに孤在性の核を共有することもあり,A型の関与も完全には否定できない,EMA(-),Leu-M3(-),CA125(+)という表面マーカー上の特徴を示し,ホジキン巨細胞と同様にCD30陽性である.サイトメガロウイルス(CMV)などの感染に伴う巨細胞は,S期に入らず死滅する運命にある.CMV巨細胞にはCD15が発現されており,細胞の巨大化という点でホジキン細胞となんらかの共通の機構を持つことが示唆された.B型巨細胞は膜表面の性状,細胞回転上の特性(とくにG1期の長さ),細胞分裂の機構などに共通性がある.endomitosisは胚細胞と共通の起源をもつ中胚葉由来の細胞に見られ,減数分裂と類似した側面があり,今後はmitosis,endomitosis,meiosisを細胞進化の面から比較検討する必要がある.
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