1.角化細胞増殖抑制因子の同定:角化細胞の自己分泌増殖抑制因子として、β型トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor-β:TGF-β)とアクチビン(activin)を同定し、さらに2種類の分子を精製した。このうちひとつはインスリン様増殖因子結合タンパク-6(insu-lin-like growth factor binding protein-6:IGFBP-6)であることがアミノ酸配列から同定された。現在、もうひとつの不安定な複合分子の構造決定を行っている。 2.組織分布:TGF-βの3種類のisoformのうちTGF-β2のはが正常ヒト皮膚組織の表皮に検出されこ。さらにアクチビン、IGFB-6の存在も確認されたが、いずれも表皮のほぼ全層に分布していた。一方、レセプターはI型およびII型のTGF-βレセプターとIB型およびII型のアクチビンレセプターの発現が表皮の有棘層に証明された。基底層での発現は検出感度以下であった。 3.腫瘍細胞における異常の検討:角化細胞に由来する扁平上皮癌では、検討した15細胞株すべてにおいてTGF-βに対する反応性の低下が見られ、このうち2株にレセプター発現の消失が見られたが、全体としてはレセプターの発現量が増加しているもののほうが多く、家族性非腺腫症性大腸癌におけるような一定の傾向は見られなかった。さらに、胃癌、前立腺癌、神経膠腫、Tリンパ白血病細胞でもTGF-βレセプター異常の有無を検討し、いずれにおいてもTGF-βレセプターの量あるいは質的異常が細胞の腫瘍化や腫瘍の悪性化に伴って生じていた。しかし、これらの腫瘍においてもTGF-βに対する反応性が低下するという共通の現象を生じている分子病理発生は多様であることが示唆された。現在、TGF-βに対する反応性の消失と細胞の腫瘍化の因果関係について検討を進めている。
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