マイコプラズマはin vitroで細胞に感染すると細胞の代謝、生理活性、形態を激しく変動させるものの、in vivoでは生体の免疫機構の防御により、Mycoplasma pueumoniaなど一部を除いた重篤な疾病をもたらす種は知られていない。ところが、最近、癌やエイズで認められる免疫低下や免疫不全の状態ではマイコプラズマ感染が積極的に重篤な病態の発症に関わる可能性が示唆されている。 私どもは動物モデル実験システムを用いて、ヒト大腸癌細胞がM.argininiに感染すると肺への転移能が著しく促進されることを明らかにした。この原因を明かにするため、感染した癌細胞に対するモノクロナール抗体を作製し、癌転移を阻止する抗体MAb243-5を見いだした。この成果に基づき、本研究では1.癌転移におけるマイコプラズマ分子Ag-243-5の役割及び2.Ag243-5の分子クローニングを試みた。1の課題ではM.argininiから精製単離したAg243-5分子が確かに癌の肺転移を5〜10倍促進することを明かにした。2の課題ではAg243-5遺伝子をM.arginini遺伝子ライブラリーよりクローニングし、その全塩基配列を決定した。 Ag243-5がどのような分子機序で癌転移を促進するのかを明かにすることで、生体内で癌転移に深く関与している分子を明かにすることができるとともに、この生体内分子の活性を阻止することによる癌転移の新しい予防や治療法の開発が可能になると考えられる。 またAg243-5分子はマイコプラズマの中でどのような機能を果たしている分子なのかについても、現在の所不明である。Ag243-5遺伝子を大腸菌で発現できるように改変し、大量のリコンビナントAg243-5の調製することにより、これらの未解決の問題に解答を与えることができると考えている。
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