研究概要 |
悪性腫瘍に対しアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いそのmRNAを不活化する試みが近年なされているが、腫瘍に特異的なmRNAを対象とする悪性腫瘍、特に固形腫瘍、の遺伝子治療実験は少ない。悪性神経膠腫は我々が従来より報告してきた様に、特異的な異常上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor,EGFR)mRNAを発現し、臨床的悪性度との関連も見出されている。本研究は悪性神経膠腫に発現するこの異常EGFRmRNAをリボザイムab-EGFR-RIBを用いて分解し、悪性神経膠腫の遺伝子治療を行うための基礎的データを得ることを目的とする。 本年度は特にin vitroでリボザイムを作製し,in vitroでの標的mRNAに対する分解活性を確認した。さらに、このリボザイム配列を有するDNAを発現ベクター(pCEP4)に組み込み、異常EGFRcDNANIH3T3トランスフェクタント(ERM5-1細胞株)に導入し、細胞生物学的解析を加えた。【1】in vitroにおける異常なEGFRmRNAのリボザイムab-EGFR-RIBによる分析実験を行った。【2】このEGFR-RIBをSV40プロモーターを有する形質発現ベクターpCEP4に組み込み、pCEP4-ab-EGFR-RIBを作成した。【3】リボザイム組み換え体pCEP4-ab-EGFR-RIBを異常なEGFRmRNAを高度に発現しているERM5-1細胞株にトランスフェクトし形質導入し、ハイグロマイシン耐性形質転換株を樹立した。リボザイムab-EGFR-RIBはin vitroで生理的条件(37℃,1mMMg^<2++>,pH7.4)に近い状態で効率良くかつ特異的に異常型EGFRmRNAを分解した。またリボザイムの合成ハンマーヘッド構造部に点突然変異構造を組み込んだdisabled ribozymeは異常型EGFRmRNA分解活性を示さなかった。pCEP4-ab-EGFR-RIBを導入したERM5-1細胞は、より正常なNIH3T3細胞に類似した形態像を呈した。 これらの研究結果から異常なEGFRmRNAを標的とした悪性神経膠腫の遺伝子治療の可能性が示唆された。今後は、pCEP4-ab-EGFR-RIBを導入したERM5-1細胞をヌードマウスに移植しin vivoにおけるab-EGR-Ribの効果を検討する予定である。
|