Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は、筋細胞膜の裏打ちタンパク質であるジストロフィンが欠如しており、筋線維が変性壊死に陥り発症する。ジストロフィンの欠如は、それをコードしているジストロフィン遺伝子に欠失や重複などの障害があるために、正常なタンパク質が合成されないからである。本研究ではDMDのモデル動物でありジストロフィン遺伝子に障害のあるmdxマウスの骨格筋線維に正常ジストロフィン遺伝子をもつ筋芽細胞を注入移植して取り込ませ、1.注入移植した筋芽細胞の宿主筋組織内での動向を明らかにすること、2.注入移植した筋芽細胞の遺伝子により作られたジストロフィンが、筋組織内でどのように出現するのかを明らかにすることであった。 移植に伴う免疫機構の問題を解決するために、平成5年度はヌードmdxマウスを用いてマウス筋芽株細胞のC2細胞を注入移植する実験を実施した。この実験系ではジストロフィン陽性筋線維を高率に出現させることができた。さらにC2細胞の宿主筋組織での動向を調べ、ジストロフィン陽性筋線維の出現過程を明らかにすることができた。その結果から注入移植後の早い時期にはC2細胞同士が融合し、その後損傷、破壊を受けた宿主筋の筋衛星細胞とC2細胞が融合してジストロフィンが出現すると考えられた。平成6年度は自己細胞を移植する方法の基礎的実験を実施した。mdxマウスの下肢筋から採取した骨格筋細胞を培養してジストロフィン遺伝子を導入し、再びそのマウスの下肢筋に培養細胞を注入移植する方法である。mdxマウスの培養細胞にジストロフィン遺伝子を導入する為には、効率と安全性の高い遺伝子導入法の確立が必要である。本年度は培養筋細胞に対する遺伝子導入法を確立することを目的として、lacZ遺伝子を用いて導入効率を検討した。リン酸カルシュウム法、カチオン性脂質法およびウイルスベクター法を比較した。ウイルスベクター法は高率であったが、安全性の面で問題が残る。カチオン性脂質法はリン酸カルシュウム法に比べ、有意に導入効率が高く、またモノカチオン性脂質よりポリカチオン性脂質が高値であった。簡便で再現性が高く、導入遺伝子の長さの制限がないカチオン性脂質法は、サイズの大きいジストロフィン遺伝子を導入するのに適しているし、また免疫反応を起こしにくいとされ、安全性の面でも有用と考えられた。
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