これまでにニューモシスチス・カリニ(Pc)感染ヒト、マウス、ラット、ブタ血清およびヒト、マウス、ラットPcに対して作製した核モノクローナル抗体パネルを用い、各種動物由来Pcのそれら抗体に対する反応性を酵素抗体法、蛍光抗体法、免疫ブロッティング法にて検討した。Pc抗原材料としては、SCIDマウス、ヌードマウス、ヌードラット、ステロイド剤投与ラット、腎移植患者、AIDS患者および自然発症ブタ由来のPcを用いた。その結果、各宿主由来Pc間に著しい抗原性の差異が存在することが明らかとなった。たとえば抗マウスPcモノクローナル抗体はラットPcとは交叉反応性がみとめられるものの、ヒトおよびブタPcとは反応しなかった。同様の結果は抗ヒトPcモノクローナル抗体を用いた場合にも認められた。すなわち、各種動物由来Pcの抗原の著しい多様性が示唆された。また上記Pc材料を用いPcのribosomal DNAについてSchizodeme analysisを行ったが、これまで用いたendonucleaseによるfragment patternでは差異は認められなかった。しかし、マウス及びラット由来Pcのribosomal DNAの塩基配列を決定したところ両者に差異が認められ、各種動物由来Pcの抗原性の多様性を裏付ける結果が得られた。一方、各種動物由来Pcを材料としたZymodeme analysisにおいては宿主由来酵素の混入が避けられず明瞭な結果が得られなかった。本研究により得られた結果はPcが一属一種であり、人獣共通感染症であるとするこれまでの節に大きな疑問が投げかけられるものである。しかしながら、同一宿主種由来のPcさらには同一個体由来のPcにも抗原の多様性が認められ、Pc生物学的に多様な微生物群であることが示唆され、その多様性の解釈には問題が残っている。
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