研究概要 |
アカントアメーバは本来、自由生活を営み、我々の日常生活環境中にごく普通に存在する一方で、角膜炎や髄膜脳炎などの病原体でもある。アカントアメーバが病原性を示す際に、宿主側およびアメーバ側のどのような因子が関与しているのかには、不明の点が残っていた。本研究では、健康人またはアカントアメーバの感染が疑われる人のアカントアメーバ抗原に対する抗体産生とクローン化T細胞を用いた細胞性免疫とを検討すると共に、アカントアメーバをクローン化して、病原性や生理機能などのアメーバ個体間での差異が、ヒトのT細胞性免疫応答にいかなる影響を及ぼし得るかについて調べることを試みた。健康日本人成人20名を調べた結果、50%にアカントアメーバ特異的T細胞応答が観察され、明らかな感染歴がなくても健康成人の約半数ではアカントアメーバに対する感作が成立していることが判った。反応T細胞はCD3^+4^+8^-,TCR-α β^+であり、インターフエロンγ産生(+)、IL-4産生(-)を示し、原虫感染に一般的に防御活性を示すTh1型細胞であった。T細胞の感作は成立していても、血中IgG抗体を調べた場合、検討対象者はすべて陰性であり、液性免疫と細胞性免疫との解離を認めた。アカントアメーバ性髄膜脳炎と診断された患者は、病原アメーバに対するT細胞応答が陰性であり、免疫低応答性と発症との関連性が示唆された。二種のアカントアメーバ及びそのクローン化虫体を用いた検討で、そのヒトCD4^+T細胞反応誘導エピトープには種を越えてアカントアメーバに共通するもの、アカントアメーバの種に特異的なもの、及びアメーバの各クローンに特異的なもの、の少なくとも三種類が存在した。アメーバ個体に特異的なエピトープが遺伝的多型によるものならば、その病原性の性状との関係が興味深いが、今回の研究ではアメーバの機能的サブタイプを識別できるTエピトープを同定する事は出来なかった。
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