研究概要 |
ラット体内の虫体(雌成虫、虫卵、第一期幼虫)に対する脂肪の影響を見るため、まず無脂肪飼料ラットより得られた糞便中の第一期幼虫の発育分化を対照と比較した。また同時にラットへの感染後の日数および糞便培養時の温度の効果も調べた。無脂肪飼料飼育ラットから得られた第一期幼虫は感染初期の段階で寄生世代感染幼虫に発育する傾向が強かった。これは先に私達(Minematsu et al.,1989)が第一期幼虫を脂肪酸で処理して得た結果と異なるが、ラット腸管内の脂肪および脂肪酸はその後の発育に必要なエネルギー源として虫体内に吸収され蓄えられると考えられる。事実、糞線虫を含むいくつかの線虫の幼虫は高い脂肪酸含有率を示す(Barrett,1968)。従って、実際に脂肪酸がスイッチングのレギュレーターとして働くのはラット体外に出た直後の第一期幼虫の段階と思われる。また低温下で培養した場合に感染幼虫に分化しやすいことが判明した。(以上の結果は第26回日本寄生虫学会南日本支部大会(1993)で発表) 第一期幼虫の脂肪酸代謝を解明する前にStrongyloides rattiの全発育段階の脂肪酸を含むエネルギー代謝の変化を調べる必要性があるので、まず感染幼虫を大量に培養してPEPCK-コハク酸経路の2酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)とピルビン酸キナーゼ(PK)の性質を調べた。PEPCKのKm,Kmax値から本酵素はPEPCK-コハク酸経路ではなく、脂肪酸からグリオキシル酸回路、糖新生経路を経て炭水化物の合成に至る代謝経路の一酵素として働いている可能性が高いことが判明した。次いで、ラット感染直後の頭蓋腔より得られた虫体ではPK/PEPCK値は、5.2となり感染幼虫の10.8に比べると急激に減少し、感染直後から直ちに代謝系が嫌気的に変わり始めることが明らかとなった。(投稿準備中)
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