研究概要 |
我々は従来よりトキソプラズマ感染細胞におけるトキソプラズマ抗原提示機構の解析を進めてきた。本研究の目的はトキソプラズマ感染細胞が特異的CTLに提示するT細胞エピトープの解析であり、これまでにトキソプラズマ感染ヒトB細胞が細胞傷害性T細胞に提示するHLA-A2分子結合トキソプラズマペプチド抗原(T細胞エピトープ)のアミノ酸配列アルゴリズムを解析し研究結果を報告した(J.Parasitol.80:266,1994)。得られた結果は、(1)トキソプラズマ感染抗原提示細胞(ヒトB細胞腫)がHLA-A2分子を用いてトキソプラズマペプチド抗原をCTLに提示していることを解明した。(2)トキソプラズマ感染抗原提示ヒトB細胞腫から抗HLA-A2抗体アフィニティカラムおよび逆相HPLCを用いてHLA-A2分子結合トキソプラズマペプチド抗原を分離・精製した。(3)トキソプラズマ感染細胞特異的CTLに認識されるHLA-A2分子結合トキソプラズマペプチド抗原(T細胞エピトープ)のアミノ酸配列を解析した結果、N末端から2番目にLeucine、3番目にIsoleucine、8番目にPhenylalanineを持ち、9番目にMethionine又はPhenylalanineの疎水性残基をもつアルゴリズムを得た。さらに、(4)アミノ酸配列結果に基づいて合成ペプチド抗原を作製し、トキソプラズマ感染細胞特異的CTLに認識されることを細胞傷害性試験により確認した。T細胞エピトープを含む抗原分子は遺伝子のクロニング中である。 一方、トキソプラズマの細胞内抗原提示機構の分子論的解折を目的として、主要トキソプラズマ表面抗原と報告されているSAG1分子の真核細胞への遺伝子導入実験を開始した。SAG1分子はマウスに免疫することにより細胞傷害性T細胞が誘導され、トキソプラズマ感染に対する防御免疫が成立することが報告されている。トキソプラズマ遺伝子導入実験については、BoothroydがCHO細胞にSAG1遺伝子を導入し、B細胞エピトープ解析を進めているが、細胞内抗原処理・抗原提示能力をもつBリンパ腫などへの遺伝子導入実験には成功していない。我々はこれまでにヒトB細胞腫ARH(HLA-A2)、マウスTap-1ペプチドトランスポーター欠損変異細胞株RMA.S(H-2^b)へのSAG1遺伝子導入に成功し、遺伝子導入細胞がCTLの標的細胞となることを確認している。遺伝子導入はSAG1遺伝子プライマーを用いてPCRによりSAG1遺伝子を確認し、RT-PCRによりmRNAの発現を確認した。今後は、SAG1分子のヒト(HLA-A2)およびマウス(H-2^b)に結合するT細胞エピトープのアミノ酸配列を解析し、SAG1遺伝子導入細胞を用いて感染細胞では抗原量が微量なために解析が困難である細胞内抗原プロセッシング機構の解析を行う。
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