シャーガス病の病原体であるTrypanosoma cruzi原虫は分類上1属1種とされてきたが、地域における病原性の違いなどから、株間の差が問題となってきた。今回この原虫株の比較をミトコンドリアDNAに類似したキネトプラスト(k)DNAの制限酵素切断パターンを用いて検討した。用いた原虫株は、パラグアイ国とエクアドル国の患者、保虫動物および媒介昆虫から分離継代したT.cruzi株ならびに標準株5株であった。原虫は、シュナイダー培地にてエピマスティゴート型虫体を培養して用いた。kDNA解析は、虫体をSEバッファー処理し、プロティナーゼk、ザルコシールを加え、高速遠心で核DNAからkDNA分離し除蛋白した後、制限酵素(EcoRI、HaeIII、MspI、HinfI、RsaI)で切断し、4.5%〜10%のポリアクリルアミドグラディエントゲルにて電気泳動を行ない、硝酸銀にて染色しkDNA切断パターンを調べた。その切断パターンには、様々なパターンがみられたが、人、動物、昆虫のそれぞれの生物間で、類似しているということでなく、昆虫から分離した株で、人からの株と非常に似た株もみられた。パラグアイで、あるグループの株は、地域集積性のみられたものもあった。またエクアドルの保虫動物から分離された株で、パラグアイの人から分離された株のグループに類似した株も認められた。一方、血液寒天培地における原虫の動態で、パラグアイの患者から分離されたDG Strain(Original code)は、他の株と形態・増殖性において著しく差が認められたが、そのkDNA切断パターンも他と異なっていた。中南米のトリパノソーマ属では、人に感染報告があるものは、T.cruziの他にT.rangeliがある。また、動物には、他のTrypanosoma spp.感染があり、今後、これらの株も加えて分析し、T.cruziの分類をより明確なものにする研究を進めていく。
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