研究概要 |
線虫感染にともなう肺病変の病理発生にマスト細胞が果たす役割を明かにするため,本年度研究実施計画に沿って,マスト細胞欠損Ws/Wsラットおよび対象+/+ラットにNippostrongylus brasiliensisを感染させ,経時的にその肺病理および気管支洗浄液(BALF)中の白血球,ケミカルディエーターの解析を行った。 肺組織中のマスト細胞は+/+ラットでは7日後にすでに有意の増加を示し,14日後には約64倍まで増加した。これに対してWs/Wsラットではマスト細胞はほとんど出現せず,+/+ラントの0.1%以下にとどまった。肺組織への好酸球の浸潤は,感染早期の3日後にピークとなり,+/+ラットでは感染前の約5倍に増加したが,Ws/Wsラットでは+/+ラットのそれの約1/2の増加にとどまった。感染2週前後から出現する肺の肉芽腫様病変は,+/+ラットがWs/Wsラットに比べより強く発現する傾向が見られた。なお肺ヒスタミン量は,感染経過を通じて,+/+ラットがWs/Wsラットより高値を示した。BALF中の白血球は,感染に伴い好中球,好酸球,リンパ球,マクロファージの順にその出現のピークが見られた。しかしこれら細胞の出現の程度はWs/Ws,+/+の間で有意差を認めなかった。なおBALF中のTNFは検出限界以下であり,その検出法に再検討が必要である。 以上に示したごとく,マスト細胞欠損動物では好酸球の肺浸潤が低く抑えられ,また肉芽腫様病変の発現も若干抑制される事から,線虫感染に伴う肺病変の発現にマスト細胞が増悪因子として作用している可能性が示唆された。しかし,BALF中の白血球の動態が両者間で差を見なかった事は,少なくともこれら細胞の炎症局所(肺胞腔内,気管支内)への動員はマスト細胞の有無に関わらず正常に機能している事を示唆し,マスト細胞は肺病変の発生そのものにはかならずしも決定的な役割を果していないと考えられた。
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