研究概要 |
我々の今回の研究でトキソプラズマの強毒株であるRH株には二種類のアイソザイム(NTPase-I,NTPase-II)が存在し、それらをコードする遺伝子の全核酸塩基配列が決定された。多数の株を用いたNTPaseの反応速度論的解析及び、PCR法による遺伝子の増幅実験の結果よりNTPase-IIは全ての株に存在するがNTPase-Iは強毒株にのみ存在することが判明した。これらの結果は米国生化学・分子生物学会誌(J.Biol.Chem)の5月号に掲載される。この研究結果より遺伝子産物ので大腸菌における発現の標的にすべきアイソザイムはどの株にも共通に存在するNTPase-IIであると考えられた。そこで我々はNTPase-IIをコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み遺伝子産物の発現を試みた。発現ベクターとしてはIsopropylβ-D-thiogalactopyranoside(IPTG)により誘発されるpGEMEX-1熱誘発性発現するpPL-lambdaを用いた。IPTGを用いて発現誘発した大腸菌をSDS処置し、電気泳動後ウエスタンブロッテングした後、抗NTPase抗体及びペルオキシダーゼ結合抗体を用いて染色したことろ、誘発によりNTPase-IIが大腸菌体内で合成されていることが確認された。熱誘発でも同様の結果であった。IPTG及び熱誘発の両系を用いて大腸菌におけるNTPase-IIの発現に成功したが、両系とも発現誘発すると大腸菌の増殖が抑制されることから、NTPase-IIはで大腸菌に対してトキシックであると考えられる。発現誘発した大腸菌のライセ-トをモノクローナル抗体を使用した臨床診断法に用いることはこのままで可能であるが、抗体を直接プレートに感作するELISA系に改良する必要があるだろう。今回の研究でNTPaseの遺伝子にはシグナルペプタイドをコードする部分が存在することが新たに判明した。このことからNTPaseは分泌性の酵素であると考えられたが、じっさいに宿主細胞内に放出されていることが確認された。これらはExperimental parasitology(79,301-311,1994)に掲載された。
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