肝蛭成虫cDNAライブラリーのスクリーニングにより肝蛭システインプロテアーゼをコードする2個のcDNAクローンを単離し、その全塩基配列を決定し推定アミノ酸配列を解析した。その結果、2個のcDNAはアミノ酸325-326残基からなる肝蛭システインプロテアーゼ前駆体をコードしており、シグナルシークエンス部(15残基)、プロ部(90残基)、および成熟酵素(220-221残基)から構成され不活性型前駆体酵素として生合成されることが明らかになった。これら2種のシステインプロテアーゼはいずれも哺乳類カテプシンLと50%の相同性を示し、3つの活性触媒アミノ酸残基近傍の配列は他のシステインプロテアーゼ同様高度に保存されていた。最も興味深い知見は腸上皮細胞内の分泌顆粒に局在する肝蛭システインプロテアーゼ(以下、カテプシンL)がアスパラギン結合型糖鎖構造を欠いており(哺乳類カテプシンLはアスパラギン結合型糖鎖を有し、リンゾームに局在している)、哺乳類カテプシンLとは本質的に異なる細胞内輸送機構の存在が示唆されたことであった。 次にこれら2種の肝蛭カテプシンLをコードする遺伝子をゲノムレベェルで解析した。すでに得られたcDNAsのオープンリーディングフレームの5'-端ならびに3'-端の塩基配列に基づいて作成したオリゴヌクレオチドプライマーと、肝蛭ゲノムDNAを鋳型に用いたポリメラーゼ鎖反応(PCR)によって増幅された産物、ならびに肝蛭ゲノムDNAライブラリーより得た肝蛭カテプシンL遺伝子クローンの塩基配列より解析を行った。その結果、2個の肝蛭カテプシンL遺伝子のコード配列はいずれも4個のエキソンと3個のイントロから構成されており、各エキソンにコードされた領域は酵素タンパク質の機能単位とはかならずしも一致していなかった。また、イントロンの挿入部位は同じであったが、第3イントロンの大きさとその配列に大きな違いがみられた。さらに興味深い知見は哺乳類カテプシンL遺伝子がシングルジーンとして存在しているのに対し、肝蛭カテプシンL遺伝子は染色体上に縦列反復配列ではないが、multigene familyとして存在してことであった。今後、肝蛭カテプシンL遺伝子の発育段階における発現制御や分泌顆粒への細胞内輸送機構の解明が望まれる。
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