膜輸送蛋白質であるP‐糖タンパク質は、ヒトやマウスでは薬剤を選択的に排出するポンプとして機能し、その遺伝子が薬剤耐性遺伝子であることが知られている。リーシュマニア原虫においても、このP‐糖タンパク質と構造的に相同な遺伝子が存在することが報告され、薬剤耐性における同蛋白質の役割が注目されるようになった。しかし、リーシュマニアのP‐糖タンパク質の構造特性や機能およびその発現機構について詳細は不明である。そこで本研究では、P‐糖タンパク質遺伝子が多重遺伝子であることに着目し、まずリーシュマニアのP‐糖タンパク質遺伝子の多型性について検討を行った。 P‐糖タンパク質にはATP結合部位が存在する。ATPとの結合には約100アミノ酸残基を隔てた2つの部位が重要とされ、それらの塩基配列は生物種を越えて強く保存されている。そこで、この2箇所の塩基配列に基づいてプライマーを作製し、PCR法によってそれらに挟まれた部分を増幅し、増幅DNAをクローン化した。Leishmania amazonensisについて、いくつかのクローンの塩基配列を決定し、推定される136のアミノ酸配列についてホモロジー検索を行った。その結果、マウスのP‐糖タンパク質遺伝子と相同性が高い(約60%)2つのクローンが得られた。両クローン間の相同性は67%であったが、リーシュマニアのP‐糖タンパク質遺伝子として唯一報告されているL.tarentolaeのものとは36%および37%と低い相同性しか示さなかった。以上の結果から、リーシュマニアのP‐糖タンパク質遺伝子の多型性、つまり既知のP‐糖タンパク質遺伝子分子種とは異なる分子種の存在が示唆された。今後、ゲノムDNAライブラリーからのクローニングを行うとともに、各遺伝子の発現誘導に関する特性を明らかにする予定である。
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