細菌感染防御における免疫系と神経系の相互作用を知るために、今年度は、神経系の指標として神経ペプチドの発現について検討した。神経ペプチドの中から、これまでの報告で免疫賦活に働くとされているsubstanceP(SP)と、逆に免疫抑制に働くとされているvasoactive intestinal peptide(VIP)に対する抗体を用い、リステリア菌(Listeria monocytogenes)およびロドコッカス菌(Rhodococcus aurantiacus)感染マウスの各臓器について、免疫組織化学的染色法により、SPとVIPの発現を検討した。非感染正常マウスでは、肺、脾臓、腸管の神経叢でSP、VIP共に検出されたが、肝臓では検出されなかったので、肝臓を中心に検討を行った。マウスに高感受性のリステリア菌を感染させた場合、肝臓において、免疫抑制作用を示すとされるVIPの発現が誘導されたが、SPは検出されなかった。一方、マウスにおいて病原性はほとんど示さないロドコッカス菌を感染させたマウスの肝臓では、免疫賦活作用を示すことが報告されているSPの発現が認められたが、VIPは検出されなかった。このように、同じ細菌感染系においても、SPとVIPはその発現様式が異なること、また、これらの神経ペプチドは、その発現部位からすると、免疫担当細胞から産生されている可能性も示唆された。今後、主としてリステリア感染系を用いて、VIPをはじめとする神経ペプチドの発現機構およびその感染防御あるいは病態形成における関与を免疫応答のメディエーターであるサイトカインとの相互作用を中心に検討していく予定である。
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