研究概要 |
黄色ブドウ球菌のα毒素は,293個のアミノ酸から構成される33kDaのタンパク質であり,赤血球,単球,血小板,血管内皮細胞など種々の細胞を障害し,実験動物に対して皮膚壊死作用及び致死作用を示す事実が知られている。α毒素の多彩な生物活性は,この毒素が動物細胞の膜表面で集合してチャンネル(Pore)活性を有するヘキサマー(六量体)を形成するためであると考えられている。本研究においては,膜の物性及び化学組成を特定したリポソームを使用して,チャンネル形成における毒素タンパク質の構造と機能を解析した。本年度は,α毒素から各種フラグメントを調製して,それらのチャンネル形成能についてさらに研究するとともに、毒素ヘキサマーのトポロジーを調べた。(1)複数のフラグメント(Alal-Glu71,Gly72-Asn293,Thr9-Lys131,Ile132-Asn293)が,正常毒素(Alal-Asn293)と同様,リン脂質とコレステロールから構成されたリポソームへ結合した。(2)これらフラグメントは,リポソームにおいてダイマー(二量体)を形成したが,リポソーム及び黒膜(Black lipidmembrane)にチャンネルを形成しなかった。(3)N末端側の8個のアミノ酸を欠損したフラグメント(Thr9-Asn293)はヘキサマーを形成するが,チャンネル活性を示さなかった。これらの結果は,毒素タンパク質の複数の部位が膜結合に関与する可能性を示唆するとともに,C末端側フラグメントが溶血活性を保持すると結論した別なグループの研究結果とは相違し,α毒素はN末端あるいはC末端側を欠損するとチャンネル形成活性を失うことを示している。また,(4)リポソーム膜に生成した毒素ヘキサマーをトリプシン処理すると,そのN末端部(Lys8-Thr9)が加水分解されるので,毒素のN末端部分は膜面から外側に露出している可能性が高い。
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