1. Vibrioferrin(VF)の鉄輸送能:VFのシデロフォアとしての機能は鉄制限下に培養した菌体での^<55>Fe-VFの取り込み活性によって示された。取り込みのkineticsは飽和曲線を示し、受容体の関与が示唆された(Km=67nM)。 2. 由来の異なる腸炎ビブリオ株におけるVFの分布:HPLCを用いるVFの定量法を確立した。本法を用いて32株におけるVFの生産量を定量した。臨床分離株(33.6μM)は環境分離株(3.9μM)と比較して約10倍量のVFを産生した。VFの産生性は宿主中での生存、増殖に有利であることが示された。 3. VFを介する宿主鉄結合蛋白よりの鉄獲得能の解析:AQ3354株によりVF非産生自然変異株(MY-1)を単離した。この株と親株との増殖を比較することによって、VFは30%鉄飽和(生理的飽和度)トランスフェリンから鉄を獲得できることが示された。このVFの能力は宿主中でも機能し、生存や増殖に寄与すると考えられた。 4. Fe-VFに対する外膜レセプターの同定:腸炎ビブリオは鉄制限下に培養すると78と83kDaの外膜蛋白(OMP)を発現した。粗外膜画分への^<55>Fe-VFの結合をオートラジオグラフィーで調べたところ、78kDa蛋白と結合することが示された。全細胞をproteinase Kで処理すると78kDa蛋白が消失したので、細胞表面に露出しており、Fe-VFに対するレセプターである可能性が示唆された。さらに、78kDa蛋白に対する抗体を調整し、これを用いて多数の腸炎ビブリオ株について調査した。いずれの株にも本抗体と反応する78kDa蛋白が認められ、この蛋白の分子量や抗原性が高度に保存されていることが明らかとなった。 5. 腸炎ビブリオのヘミン鉄利用性とヘミン結合性外膜蛋白の同定:本菌はヘミン(Hm)やヘモグロビンを鉄源として利用することが示された。さらに、上記83kDa蛋白がHm-アガロースアフィニティー法で単離され、Hmレセプターの可能性が示唆された。 6. 腸炎ビブリオは2種の鉄獲得系を有していることが明らかとなった。それ故、本菌における鉄獲得系と病原性発現との関連をin vivoの系で解明するためには、これら2種の外膜レセプターの欠損株を作成する必要がある。さらに、鉄獲得に関連する遺伝子群の鉄制御機構を分子遺伝学的手法で解明する予定である。
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