緑膿菌では、鉄濃度により発現が制御される一連の遺伝子群である鉄レギュロンが存在し、鉄獲得に直接関わるシデロフォア(ピオベルジン)の合成遺伝子群や、他の複数の病原因子の遺伝子群が含まれる。本研究の目的は、プロモーター検索用レポーター遺伝子含有トランスポゾンにより分離したピオベルジン合成遺伝子群突然変異を材料にし、鉄レギュロンへの、またレギュロン内での情報伝達の分子機構の解明である。 1.ピオベルジン合成遺伝子群の緑膿菌染色体上での構造についてさらに詳細な解析を進めた。(1).本遺伝子群を含む計103kbの緑膿菌染色体断片及び上記突然変異部位を大腸菌にクローン化し、本遺伝子群領域の物理地図、突然変異の分布、各遺伝子の転写方向を決定した。(2).本遺伝子群は染色体の遺伝子地図上の47分領域に、物理地図上のSpeI-J断片上に存在していた。クローン化領域は125kbの長さを持つcatA領域(46分領域)と10kb重複していた。 2.緑膿菌内での組換えプラスミドの研究から、本遺伝子群内で鉄濃度により活性が制御される複数のプロモーター領域をいずれも1kb以下に局在下した。大腸菌内ではこれらのプロモーター活性が認められず、このことから、本遺伝子群の発現を正に制御する遺伝子が緑膿菌に存在すると結論された。 3.大腸菌内でこれらのプロモーターの活性を出現させる緑膿菌DNA断片を、本菌の遺伝子ライブラリー中から選択した。この正の制御遺伝子pvdRを含む2.5kbの断片内は上記の103kb内に位置していた。現在、pvdR遺伝子の構造と機能について詳細な解析を進めている。 4.本年度、緑膿菌の鉄レギュロン全体の発現を負に制御するとされるFur蛋白質の遺伝子が米国で単離された。本遺伝子の塩基配列をもとにPCR法でfur遺伝子をクローン化した。今後、染色体上のfur遺伝子に欠損を持つ緑膿菌株を作製し、この株でのピオベルジン産生の鉄濃度依存性を検討する予定である。
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