本年度に継続される研究目的は、インフルエンザウイルスが潜伏感染していると考えられるMDBK細胞のvariant(MDBK-R)細胞内のウイルスに特異的なゲノムを正確に定量し、細胞継代に伴うこれらのゲノムの動向を明らかにすると共に、潜伏感染細胞でのインフルエンザウイルスの機能発現様式を検討することである。インフルエンザウイルスの8種類のゲノムのうち、NS、M、及び、NPをベクター(Bluescript)にクローニングし、各々に制限酵素で切断できる部位を構築した。各々のベクターからインターナルコントロール(IC)としてのマイナス鎖のRNAを合成した。各々のゲノムについて既知量のICをMDBK-R細胞の破砕時に投与し、常法で総核酸を抽出した後、ICとウイルスゲノムを含む総核酸をRT-PCRに供した。制限酵素で処理したPCR産物をアガロース電気泳動で分離すると、切断されたICとウイルスゲノムのPCR産物を区別して定量することができた。両者の量比を求めることにより、既知量のICから細胞に存在するウイルスゲノムRNAを定量することができた。この方法により、以下のことが明らかになった。(1)8代継代したMDBK-R細胞内には各々0.5〜0.8コピーのゲノムが存在しており、18代継代した同細胞内には0.1〜0.3コピーのゲノムが存在していた。ゲノムの種類により若干の相違は認められたが、いずれのゲノムも細胞の継代にともなって徐々に減少している。しかし、10代後の継代細胞では、1個の細胞が10^6個に分裂していると算出されることから、この細胞ではウイルスのゲノムが増殖しながら持続していることが示唆される。(2)ICの回収率(5〜62%)が試料により大きな相違が認められたことから、常法の抽出精製法を用いた核酸の定量には無視できない誤差がありうることが示唆された。特に、エタノール沈殿による核酸回収の差が大きく現れるようである。(3)25代継代細胞におけるNS遺伝子(PCR産物)の中から5つをクローニングして配列を決定したところ、いずれも6〜11ヵ所において変異が認められた。これらがPCRに伴う人為的変異か否かは検討中であるが、何れのクローンもA/WSNのRNA配列と異なることから、インフルエンザのゲノムはヘテロで存在している可能性を示唆していると考えられる。
|