本研究の目的は、悪性疾患の一つである成人T細胞白血病を引き起こすウイルス(HTLV-1)の感染を防御する抗体の認識抗原決定基を解明し、防御的抗体を誘導する新しい概念のワクチンであるペプチドワクチンを研究開発することであった。HTLV-1の感染者の数は多く、日本では約100万人、アフリカや南アメリカでは1000万人と推定されている。現在のところ、この白血病ウイルス感染を予防するワクチンは開発されていない。したがって、ワクチンを開発することは、先進国はもとより発展途上国においても重要な社会的意義を持ち、その早期実現が期待されている。分子レベルでの免疫応答の研究が盛んになった今日、病原微生物の感染予防を目的としたワクチンの中で、新しい概念のワクチンである"ペプチドワクチン"の研究開発は、免疫学の一つの先端をゆくテクノロジーとして注目されている。ウイルスに対する合成ペプチドワクチンを完成させるには、先ずウイルスの弱点を攻撃する抗体が認識する抗原決定基(エピトープ)の一次構造(アミノ酸配列)を解明しなければならない。そちてそのエピトープを含ませたペプチドを免疫原性の高い構造に構築することが必要である。今回の研究により、HTLV-1感染を予防できるワクチンの基本構造となるべき合成ペプチドの一次構造が決定され、実際にペプチドワクチンの感染防御効果が検証された。
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