本研究の第一の目的は、EBウイルス(EBV)EBNA3C遺伝子の機能を探ることであり、その手段として相同的DNA組換えによる同遺伝子のターゲティングが用いられた。EBNA3C遺伝子を標的とするターゲティングベクターpTE3C-Hygが作製され、EBV産生細胞株B95-8に導入された。一旦hygromycinによる選択を行い、pTE3C-Hygを環状プラスミド状態で保持するB95-8細胞クローンが単離された。これらのクローンからのEBV産生を誘発することにより組換えが引き起こされ、生じた組換えウイルスはEBV陰性のヒトB細胞株BJABに潜伏感染した状態で回収された。また同様にして生じた一部の組換えウイルスは臍帯血由来リンパ球に感染させ、樹立されたリンパ芽球様細胞株中に回収された。その後の解析により、BJAB細胞中に回収されたウイルスは相同的組換えによりEBNA3C遺伝子内にhyg耐性遺伝子が組込まれたものであり、一方リンパ芽球様細胞株に回収されたウイルスはランダムな組換えによるものであることが示された。BJAB細胞中に回収された組換えウイルスの生物活性の検討が今後の課題である。 本研究ではまた組換えウイルス感染細胞が薬剤耐性であることを利用して、新しいEBV持続感染系が開発された。ヒトT細胞株MT-2に組換えウイルスを感染させたのちhygromycinで選択培養を行うことにより、100%EBV陽性のMT-2細胞クローンの継代に成功し、Tリンパ球系における最初の実験的EBV持続感染系となっている。この系におけるEBV遺伝子発現のパターンは実際のヒトT細胞リンパ腫におけるものと類似してり、実験モデルとしての有用性が期待される。またBリンパ球系ではウイルス複製サイクルの引き金となるBZLF1蛋白質がconstitutiveに発現されているにもかかわらずウイルス複製は認められず、Bリンパ球系とは異なったEBV遺伝子の発現調節機構の存在がうかがわれた。
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