本研究の目的は、インフルエンザウイルスの抗原性を主に担うHA蛋白質の抗原領域部位に対応するペプチドを連続的に合成して、ヒトの免疫系がHA蛋白質のどの部位を抗原決定基として認識しているかを解析し、併せて、各抗原決定基の免疫原性の強弱を明らかにすることにある。以下のような研究成果が得られた。 1。HA蛋白質に対するマルチピンペプチド合成を、A/Kamata/14/91(H3N2)ウイルスのアミノ酸配列に基づいて行った。HAlポリペプチドの100-300番目のアミノ酸部位に対応する、8および10アミノ酸からなるペプチドを2個ずつアミノ酸をずらしながら合成した。ヒト血清には1990/91インフルエンザシ-ズンにA(H3N2)インフルエンザに罹患した5例のペア血清を用いた。エピトープを構成するペプチドおよび免疫原性の強弱はELISA法で解析した。 2。5例のペア血清はいずれもA/Kamata/14/91ウイルスに対して感染後にHI価が4-32倍上昇していたが、感染前でも1例を除き20-40のHI価を示した。8アミノ酸から成るペプチドを抗原に用いた場合、ペア血清に共通して約1/3のペプチドが強弱をもってヒト血清中の抗体と反応した。4例ではペア血清の間に差が認められなかったが、感染前のHI抗体価の低かった1例では少数のペプチドが特異的に感染血清と反応したが、抗原決定基を特定することはできなかった。10アミノ酸から成るペプチドを抗原に用いた場合、抗原決定基の特定はある程度できたが、ペプチド数を増やした方がより明確な結果が得られることが推察できた。 今後、解析に用いるヒト血清の選択、特異性を得るためのペプチド数の設定、免疫原性の強弱を見るための厳密なコントロール等の課題が残されている。
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