我々はチロシン燐酸化が重要な制御因子となっているTリンパ球の分化や活性化において、その制御機構をチロシンフォスファターゼという新しい観点から検討すると同時に、チロシンフォスファターゼのシグナル伝達経路に果たす役割を明らかにする目的で研究を進めて来た。平成6年度は、以下の点について解析を加えた。リンパ、造血系組織に発現するあらたなチロシンフォスファターゼの発現解析とcDNAクローニング:我々がPCRで見いだしたチロシンフォスファターゼ断片をプローブに用いて、新規の3種チロシンフォスファターゼ(PTPST8、以下DPZPTPと改名、TPT36、PTPBR7)について、リンパ系組織や細胞株での発現をより詳細に検討した結果、胸腺でDPZPTPは主にストローマ細胞に発現していること、PTP36はストローマ細胞にも発現しているが分化過程のCD4^+CD8^+(DP)Tリンパ球で分化段階特異的に一過性に発現することが明らかになった。これに対し、PTPBR7は中枢神経系で小脳のプルキンエ細胞に強く発現していた。胸腺においては、in situハイブリダイゼーションで散在する少数のシグナルを認めたが、それがいかなる細胞かについては今後の課題に残された。これら全てについてcDNA全長のクローニングから一次構造を決定し、DPZPTP及びPTP36は細胞質型チロシンフォスファターゼであること、PTPBR7は膜貫通領域を持ち、レセプター型チロシンフォスファターゼであることを確定した。mRPTP‐σの解析:我々が一次構造を明らかにしたmRPTP‐σ(PTPTW9を改名)について更に解析を進めたところ、mRPTP‐σは中枢神経とそれ以外の組織で、組織特異的なalternative splicingを受けていることが判明した。mRPTP‐σの細胞外部分は細胞接着分子と類似の構造をとることから、イムノグロブリンとのキメラ分子をCOS7細胞で発現させ、細胞への結合性について検討したが、特異的な結合は見いだせなかった。
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