Tリンパ球を含む様々な細胞の分化や機能発現の過程で、チロシン燐酸化を介したシグナル伝達系が重要な制御因子となっている。我々はチロシンフォスファターゼによる脱リン酸化という新しい観点から制御機構を検討すると同時に、チロシンフォスファターゼのシグナル伝達経路に果たす役割を明らかにする目的で研究を進めて来た。まず発現するチロシンフォスファターゼのレパートリーを検討するためPCRでチロシンフォスファターゼcDNA断片増幅したところ8種の既知遺伝子、7種の未知遺伝子断片を得た。このうち4種の未知遺伝子断片をプローブに用い、mRPTP-σ(PTPTW9を改名)、PTP36、DPZPTP(PTPST8を改名)、PTPBR7の全一次構造を明らかにした。mRPTP-σは細胞接着分子様の細胞外ドメインを持つレセプター型分子で、組織特異的なalternative splicingを受ける。PTP36は細胞質型分子で、そのN-未端は、細胞骨格の構成タンパクのひとつバンド4.1のN末端と相同性を有する。mRPTP-σとPTP36は、ともに分化過程のTリンパ球で発現していた。mRPTP-σは未分化なCD4^-CD8^-細胞で、一方、PTP36はやや分化したCD4^+CD8^+細胞で一過性に発現することから、Tリンパ球の分化過程への関与が示唆された。Tリンパ球の分化は、ストローマ細胞との相互作用といった細胞外からのシグナルによって制御をうけているが、これらのチロシンフォスファターゼがそのシグナル伝達過程に何らかの役割を果たしている可能性が考えられた。DPZPTPは、胸腺では主にストローマ分画で発現する細胞質型分子で、約90アミノ酸からなる5箇所の繰り返し配列を有していた。PTPBR7は膜貫通領域を持ち、レセプター型分子で生体内では主に小脳のプルキンエ細胞に発現していた。胸腺においては、in situハイブリダイゼーションで散在する少数のシグナルを認めたがそれがいかなる細胞かについては今後の課題に残された。
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